この展覧会は「対(つい)」という視点から、美術作品やデザインなどの表現を鑑賞するものです。
「対」という概念は、2つで一組になっているもの、素材や形が揃っているもの、力や能力が同じであるもの、向かい合う対称的なものをいいます。
東洋の書や絵画には、二幅対や三幅対と呼ばれる複数の掛け幅からなる対幅という形式や右隻と左隻で一双となる屛風、また2つ3つで一組となる工芸品など、<対>で成り立つ作品が数多く存在します。
対幅は全体としてだけでなく、単幅や異なる組み合わせでも鑑賞できる性質をもっています。時間や場所の連続性、モチーフの対比の面白さと共に、全体の完結性が鑑賞できるものです。
一方、1つの作品の中にも、素材の<対>となる取り合わせを見いだすことができる作品もあります。作品に込められたメッセージを知る手がかりであり、東洋美術作品鑑賞の糸口にもなります。
今展では、二幅対、三幅対、五幅対の掛け幅や一双屛風・工芸品を中心に、対となる取り合わせからどんな意味が見えるのか、季節やモチーフの対比と関係性・連続性をお楽しみください。
対なる形 | ||||
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作品名称 | 作者名 | 員数 | 時代 | 所蔵・備考 |
雷公風伯図 | 菊田伊洲 | 二幅 | 19世紀前半 | 前期 |
行書七言対聯 | 李 鴻章 | 二幅 | 1876年(光緒2年) | 前期 |
風神雷神図 | 平塚華馨 | 二幅 | 20世紀前半 | 後期 |
行書五言対聯 | 羅山元磨 | 二幅 | 19世紀 | 後期 |
三夕倭歌図 | 佐久間 洞巌 |
三幅 | 18世紀前半 | |
五百羅漢図 | 梅津月橋 | 五幅 | 19世紀 | |
雨雪山水図屛風 | 東 東洋 | 六曲 一双 |
19世紀前半 | 前期 |
蘭亭曲水図屛風 | 荒川洞月 | 六曲 一双 |
19世紀前半 | 後期 |
伊達家旧蔵 貝合わせ |
二組 | 江戸時代 | 松島博物館 所蔵 |
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伊達家旧蔵 蒔絵煙草盆 |
一基 | 江戸時代 | 松島博物館 所蔵 |
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素材の取り合わせ | ||||
作品名称 | 作者名 | 員数 | 時代 | 所蔵・備考 |
豊干虎図 | 得明 | 一幅 | 1930年(昭和5) | |
文王呂尚図 | 蠣崎縉斎 | 一幅 | 1835年(天保6) | 前期 |
寒山拾得図 | 可堂 | 一幅 | 1913年(大正2) | 前期 |
恵比寿大黒図 | 佐竹永海 | 一幅 | 1845年(弘化2) | 前期 |
常磐雪行図 | 月岡雪斎筆 本居大平賛 | 一幅 | 19世紀前半 | 前期 |
江口君図 | 春山 | 一幅 | 20世紀前半ヵ | 前期 |
林和靖図 | 月堂 | 一幅 | 20世紀ヵ | 後期 |
豌豆に三毛猫図 | 小池曲江 | 一幅 | 1831年(天保2) | 後期 |
郭子儀図 | 佐久間 鉄園 |
一幅 | 20世紀前半 | 後期 |
常磐雪行図 | 東 東洋 | 一幅 | 19世紀前半 | 後期 |
閻魔花魁図 | 藍園 | 一幅 | 未詳 | 後期 |
版画「松島道中」 (全11枚の内) |
遠藤速雄 | 七枚 | 19世紀後半 |
一幅に羅漢を百人ずつ描いた大作。人物の輪郭線は経文で表す。制作年数は3年で、塩竈の佐浦家より瑞巌寺に寄進された。
月橋は仙台藩士。画を荒川洞月に学んだ。
風神雷神を二幅対で描いた。有名な俵屋宗達のそれとは二神の配置が逆で、その姿態も異なる。強い墨線とぼかしを生かした作品。
伊洲は江戸時代後期の仙台藩御用絵師。
持石帰来滄海色 落花飛處墨池香
李 鴻章は中国清時代末の安徽省合肥出身の政治家。
箱蓋裏には伊藤博文より瑞巌寺住職に贈られたことが記されている。
右隻には夏の景、左隻には冬の景を、沢の流れを軸に描かれる。
東洋は京都で四条派を学び、晩年に仙台藩御用絵師となる。(白鷗楼文庫)
中国浙江省の蘭亭で催された詩会の故事に由来する作品。緩やかな時の経過は流水と共に右から左へと流れていく。
洞月は仙台藩御用絵師荒川家三代。(白鷗楼文庫)
描かれる川岸の釣り人(呂尚)と声をかける貴人(文王)は、有名な出逢いの逸話を絵画化したもの。
縉斎は江戸時代後期の郷土の絵師。菅野縉斎と同一人物。(白鷗楼文庫)
豌豆、三毛猫、蝶の素材の取り合わせは、寓意や音通によりおめでたい願いが込められている。
曲江は全国を遊歴した江戸時代後期の塩竈出身の絵師。(白鷗楼文庫)